工業高校での楽しい教材作り
                                                

2002年2月

この原稿は技術教育研究会の2002年2月号に投稿した原稿です。


1)工業高校で受け持った授業

 教員になって19年目になり、ちょうど教員生活の折り返し地点に立っている。この19年間を振り返ってみて、はじめに私の受け持った授業を通して工業高校での受け持ち授業について説明したい。愛知では機械科は学校の1学年に2クラスが平均的であり、授業時間数は総単位数を半分づつ工業科目と普通科目で受け持つのが一般的である。その工業科目の中で、教室で行う座学は半分の単位数を占めると思われる。
 今までに、私が受け持った座学の科目は自動車工学・計測制御・機械設計・原動機・工業数理・電子機械・情報技術基礎・電気基礎・機械工作の9科目を受け持ったと思います。しかし、電子機械応用・電子基礎・材料技術基礎・工業英語・工業管理技術など私の受け持ったことのない科目がある。また、一年間の持ち時間の平均を18時間として、座学は2科目の約6〜8単位で残りの時間を実習や課題研究・工業基礎の実習関係と機械製図が占める。
 単純に19年間で9科目を受け持ったとすると同じ科目を約2回行っているようになるが、実際には同じ科目であっても、3年間でするものや1年間で終わる科目があるので、受け持ち科目の同じ単元を授業として行うことはあまりない。その上に一般的には学年で機械科は2クラスしかないので同じ授業を2回しか行わないときや、持ち時間の関係で二人で受け持つときがあるので1回のときもある。工業高校の座学では1時間の授業を平均2回しか行われないことになり、担任などで学年を持ち上がると後は早くても3年後に、その1時間の授業をやっと行うことになるのです。このことが数学などの普通教科と大きく違う点である。同じ1時間の授業を何クラスでも繰り返し、同じ単元を何年も続けて行えることにより、熟練した授業や教材研究の取り組みへと展開することができるのではないかと思われるが、工業などでは科目の固定化も弊害があり、授業という技能への熟練化がうまく行えない現状があると思われる。


2)私の授業展開

 私が授業を考えるときに影響を受けたのが、愛知物理サークルの投げ込み教材・仮説実験授業の選択肢・遠山啓の水道方式・公文式のプリントである。それらの考え方を参考にして、授業を展開している。
@物理サークルから投げ込み教材
 新任の頃は教科書に書いていることを、要約して黒板に解りやすく板書することだけで精一杯であり、それが座学であると思っていました。教室に何かを持ち込むことなど考えもつきませんでした。しかし、約15年前の組合の一泊教研で夜に物理の二人の先生が廊下で何やら楽しそうに話し合いながら教材を紹介しているのです。それがアクリル管による圧縮着火でした。びっくりして、ディーゼル機関の原理がこんな簡単に再現でき、教室で見せることができるなんて、衝撃的なことであり、愛知物理サークルとの初めての出会いでもありました。教室に実験を持ち込むという、教材作りのバックボーンとなり教材に関する興味が高まったのです。
A仮説授業実験から選択クイズ
 そのころ、ある社会科の先生が「この本は面白いよ」と紹介してくれたのが「楽しい授業」であり、これが仮説実験授業を初めて知ったときであるが、はじめは意味も分からずに流し読みをしていただけであるが、今は会員にもなっている。
 仮説実験授業を簡単に説明すると選択肢への挙手と自分が挙手をした理由(仮説)の発表を行ってから実験をする授業で独特の授業展開と考え方を持つものである。この授業展開を参考にして選択肢を作り実験の前にどうなるかを考えさせて、選択肢のどれになるかを挙手させている。しかし、生徒は高校になると発言が少ないので、選択肢に、昔の「おもしろゼミナール」のクイズ番組みたいに文章を付けて、手を挙げ易いようにしている。

B水道方式から要因図的授業展開
 授業で実験などをしても、興味を示してくれるがテストができないことがある。これは生徒のテストが出来る・出来ないは私の授業の教材に関係があるのではなく、数学的計算能力に問題があることが大きな要因であると思い始めた。工業での授業では、単位変換・式の移行・三角関数などの数学的計算が出来ないためにテストが出来ないのである。興味ある授業をしても問題が解けないと言うお粗末な現状がそこにあった。そこで、式の移行や三角関数などの基本的数学をいかに授業の中で解りやすく理解させるかが大きな問題となったのである。そのために数学サークルに参加したり、数学の本を読んだりしていると遠山啓さんの「数学入門」の水道方式に目が止まりました。その中で式の移行を天秤法として理解しやすく紹介しています。
A=の式にするためには左のAを含む式からBがなければよいのでBを掛けて、同じ重さにするためには右もBを掛けることになる。このように天秤の図を書けば視覚的に式の移項が理解しやすくなる。

 また、三角関数は図1の様に覚え方を伝えれば生徒は理解したと考えていたが、指定角を変えたり三角形を傾けると基本の形に直すことが出来ない生徒がいる。

 そこで、いろんな向きの三角形を基本の形になおすことや式の移項をするプリントを作る。テストではいくら公式を覚えても、求める辺に式の移行ができなければ応用の問題はできない。なぜ出来ないのかを分析してみると、どの様な問題の流れを作るかなどの授業展開が組み立てられる。何故できないのかという結果があり、その原因を突き止める要因図的なものを授業展開に持ち込んでプリントの流れや配置を考慮している。


C公文式からタイムドリル
 授業の内容を定着させたいと思い、手に取った本が公文式の本であった。公文公さんがどうして、この方式を作り上げたかや時間を測る理由、100点をとれる問題など、ドリルとしては最高の考え方であった。それを参考に3分を目安として、早い人で1分ぐらいで全てが出来るような問題で90%以上の人が100点になるようなプリントを配り、出来た人は手を挙げて、そのときの時間をプリントに記入する。
 この一連の作業の利点は短い集中でよい・問題が解ける・早くできることはよく理解している目安になるなどの効果がある。


3)教材作りを趣味に

 1時間の授業のために、後はいつ使用するか判らない座学の教材を考えることは現実的にはなかなか出来ないことである。
 しかし、教材作りが趣味ならば損得を考えることなく、自分の楽しみのために教材を作ることができるのです。作った教材を授業で使用しなくても気にならず、それを考えたり作ったりしている自分が楽しいのである。
 インターネットが発達してホームページを作ることにより、それらを発表する場を得ることができる時代になりました。趣味の発表としては最高の時代が来たと思います。私の教材が多くの人の教材に、多くの人の教材が私の教材にと発展していく時代になったのです。学校からでも、「教材の部屋」のホームページを見に来てください。
 「教材の部屋」に情報では「テレパシで君の心は読めるぞカード」で、<あるを1><ないを0>と言う数字に置き換え、見せる順番を重みと考えることにより数字を導き出し、その数字からどの記号であるかを当てることができるカードです。言葉という記号も1と0で表すことができ、コンピュータが言葉を表す原理として生徒と授業の中で作っています。その他には「暗号で遊ぼう」は指を立てたりして、その組み合わせで文字を決めた表を作り指で言葉を相手に伝えるというものでアスキーコードを教えるときに遊びます。

 また、電気関係では「無線で豆電球を点灯させる」は微電流で点灯する電気浮きに使用されている電球を見つけることが出来たので、簡単な構造の豆電球が電波だけで光るという教材になっています。



 他にも機械の「バットで偶力」や工作の「皿回しで遠心力」などの教材があります。その中から一つでも授業で使用してくれるとうれしいです。



参考書
・遠山啓「数学入門」上・下   岩波新書
・月刊「楽しい授業」      仮説社
・「いきいき物理わくわく実験」 新生出
関連のホームページ
・愛知物理サークル
 www2.hamajima.co.jp/ikiikiwakuwaku/index.htm
・西三数学サークル
 www.seisan-math.net/
・技術のおもしろ教材集
 www.gijyutu.com/kyouzai/index.html


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